京都・伏見稲荷大社「両宮社」【重要文化財】
造営年
- 1694年(元禄7年)
建築様式(造り)
- 二間社切妻見世棚造
屋根の造り
- 檜皮葺
主祭神
- 天照皇大神、豊受皇大神
例祭
- 10月17日、10時
社格
- 伏見稲荷大社・末社
重要文化財指定年月日
- 2014年(平成26年)1月27日
伏見稲荷大社「両宮社」の読み方
両宮社は、りょうみや・・
ではなく、「りょうぐうしゃ」と読みます!
「両宮」の名前の由来
伊勢の神宮(三重)の内宮と外宮に奉斎される神が祀られていることから、両方の宮として「両宮」と付される。
伏見稲荷大社「両宮社」の歴史
現地案内板によりますと、1589年(天正17年)の社頭図に「伊勢両宮南向再興」とあり、神明造の社が描かれている、これがかつての両宮社の姿とされています。
その後、江戸時代の1694年(元禄7年)、現在の地に、現在の様式の社殿が再興されました。
「両宮」とは、そのまま解釈すると、「2つあるうち両方のお宮」という意味のようですが、なぜこのような名前が付いているのでしょうか。
両宮社の名前の由来
寺社巡りを趣味とされている方は、ぴんと来たかもしれません。
両宮と書いて「りょうぐう」と読むとき、それは普通、「皇大神宮(こうたいじんぐう)と豊受大神宮(とようけだいじんぐう)」、一般的な呼び方で言うと、「伊勢神宮の内宮(ないくう)と外宮(げくう)」を指します。
伊勢神宮内宮の正宮(しょうぐう)には天照大御神(あまてらすおおみかみ)、正式名称「天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)」が祀られています。
一方、外宮の正宮には、豊受大御神(とようけおおみかみ)が祀られています。
もうお分かりですね。
伏見稲荷大社の両宮社の御祭神は、これら2柱の神であり、したがって、「両宮」という名が付いているのです。
ちなみに、正宮とは、御本殿(御正殿)がある御垣内のエリアのことで、伊勢神宮の内宮・外宮の各境内で、もっとも尊い場所とされています。
ちなみにこの両宮社は、隣り合う以下の3社とともに「上末社(かみまっしゃ)」と呼ばれています。
- 長者社
- 荷田社
- 五社相殿
- 両宮社
伏見稲荷大社「両宮社」の御祭神とご利益
両宮社には、伊勢神宮の内宮・外宮と同じ、「アマテラス」と「トヨウケ」が祀られています。
天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)、豊受皇大神(とようけすめおおかみ)と表記していますが、どちらも、アマテラスとトヨウケの別称です。
①天照皇大神
「天照」という言葉にも表れているように、「天に照り輝く太陽」を意味する名を持つ天照皇大神は、太陽神です。
また、日本の皇室の祖神、そして、日本の総氏神とされ、八百万の神々の最高位に君臨する女神です。
ご利益は、大きく言えば「国土平安」ですが、要するにあらゆるご神徳を併せ持つ神です。
特に、太陽神として、地上の色々なものの生命力やエネルギーを司るとされています。
②豊受皇大神
豊受皇大神は、穀物を生育させる霊力の象徴である「ワクムスビ神」の娘です。
「豊」は豊かさを、「受」は「食(け)」を意味します。
伊勢神宮では御饌(みけ)の神、つまり、天照大御神の食物を調達する役目を果たす神とされ、そこから発展して、五穀を司る神となりました。
ご利益は、農業や漁業の守護、衣食住にかかわる諸産業の守護、五穀豊穣、一家繁栄などとされています。
伏見稲荷大社の本殿中央に鎮座する宇迦之御魂大神(うかのみたまおおかみ)も五穀・食物の神であり、基本的な性格が似ていることから、豊受皇大神と同一視されることもあります。
伏見稲荷大社「両宮社」の建築様式(造り)と見どころ
切妻見世棚造とは?
両宮社の建築様式は「二間社切妻見世棚造」とされています。
二間(にけん)というのは、社殿の正面の柱の間「柱間(はしらま)」が2つ、つまり、柱が3本あるという意味です。
小さな社殿なのに、一間ではなく二間にしたのには、「2柱の神を左右に祀るため」という目的があるのでしょう。
屋根は、切妻屋根です。
向かって左側に並ぶ長者社、荷田社、五社相殿の屋根と似ていますが、他の3社が「流造」であるのに対し、両宮社の方は単に「切妻造」となっています。
どちらも、本を開いて伏せた形なのですが、流造は、前方を長く延ばして庇(ひさし)にしているという特徴があります。
一方、両宮社の屋根は、前後同じ長さになっており、流造のようなカーブもついていません。
見世棚とは、店舗で売り物を陳列する棚のことですが、社殿建築の見世棚造とは、小さな社殿であるため、本来は備わっているはずのご神体を安置する、あるいは人が立ち入る部屋や階段を設けず、この「見世棚」のような形にしてある建築様式のことを言います。
両宮社の特徴は伊勢神宮譲り
御祭神のところでもご紹介しましたが、両宮社の御祭神は、伊勢神宮内宮・外宮の主祭神である2柱の神です。
また、社殿もかつては内宮・外宮の御正殿の建築様式である「神明造(しんめいづくり)」だったとされています。
神明造は、日本最古の神社建築の様式で、「切妻造・平入り・掘っ立て柱」が特徴の、直線的でシンプルな建物です。
平入りというのは、切り妻屋根の斜面が前後を向いている形なので・・
そう、伏見稲荷大社の両宮社の社殿と同じです!
両宮社は「見世棚造」であり、神明造の「掘っ立て柱で高床式」という特徴は見られませんが、その他の切妻造・平入りで正面側が長い長方形の形をした社殿というあたりは、まさしく、神明造です。
また、向かって左側に並ぶ3社がいずれも朱色の柱と白い壁を持っているのに対し、両宮社は彩色を施さない白木造で、これも、神明造の特徴の1つと言えます。
社殿の正面には向かって右に天照皇大神、左に豊受皇大神と書いてあり、参拝時に鳴らす鈴も、それぞれに用意されています。
両宮社の千木と鰹木
両宮社の屋根の上には、X型の「千木(ちぎ)」と、「鰹木(かつおぎ・堅魚木)」と呼ばれる丸太のような装飾が乗っています。
これらも神明造の社殿の特徴の1つなのですが、両宮社のものには、珍しい特徴があります。
なんと、千木の形が、左右で異なるのです。
向かって右側は、千木の先端が地面と平行にカットされた「内削ぎ(うちそぎ)」、左側は、地面と垂直にカットされた「外削ぎ(そとそぎ)」と呼ばれる形になっています。
一般的には、男神を祀る社殿には外削ぎの千木、女神を祀る社殿には内削ぎの千木が用いられることが多いのですが、両宮社の御祭神は両方女神なのに、2種類の千木が採用されています。
実はこれも、伊勢神宮の正宮・御正殿に倣っているのです。
伊勢神宮では、内宮の正宮・御正殿の屋根には内削ぎの千木、外宮の正宮・御正殿の屋根には外削ぎの千木が乗せられています。
外宮の御祭神・豊受大御神も女神ですが、伊勢神宮では内宮を中心としているために、外宮の社殿が内宮と同じでは畏れ多いとして、あえて内宮と異なる造りにしているとも考えられてます。
そこで、伏見稲荷大社の両宮社は、片方に内宮の千木、もう片方に外宮の千木を採用し、両宮の特徴を併せ持つ社殿となっているのです。
鰹木については、通常、男神の社殿は奇数、女神の社殿は偶数となっています。
伊勢神宮の正宮・御正殿に関して言うと、内宮が偶数、外宮が奇数です。
伏見稲荷大社の両宮社の鰹木は3本です。
鰹木は1つの屋根に「偶数も奇数も」とはいかないため、伊勢神宮・外宮がそうしたように、天照大御神を祀る内宮の御正殿に合わせることを避けたのかもしれません。
伏見稲荷大社「両宮社」の場所
本殿の隣にある権殿の脇の石段を上がると、正面に玉山稲荷社、左側に両宮社があります。
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